ジャズ喫茶コルのちっこいおっさん。

仕事おわり、梅田から電車に乗る前に電話を入れる。


「あと、30分で着くから、まずいやきめししといてぇ〜。」


「今日はカレー食べるわ〜。カレーあるん?」


「ちょっと遅なったけど、まだ誰かおるぅー?あ、ホンマ。ほんなら1杯だけ寄るわー。」

カレーはやきめしよりは、イケル。やきめしは食べられへんことないけど、全然旨ない。
パラパラしてへん。おとんがはじめてつくったみたいな(笑)
でも、なぜか頼んでしまう。
ぜーんぶたいらげてしまう。
人にはよう勧めんし、おいしくないけど、馴染む味。
好きかキライか言うたら、好きな味。わかるかなぁ〜?
ある時、底にプツプツ穴の開いたフライパン買って来ていた。本人もパラパラしたかったと思われる。
多いめとかにしてもらっても値段変わらず。
なんでかラーメンもあった。
おいしいワケがないので、頼んだことない(笑)
注文が入ってるのも見たことない。
450円とか500円とか550円とかリーズナブルとかじゃなく、昭和の値段。
時間がない時はみんなの顔だけ見て帰る。

毎月、給料日にはコーヒーチケットとターキー1本入れる。
コーヒーチケットは当時、11枚綴りで3000円。
コーヒーはめちゃめちゃ旨い。マスターの入れるコーヒーは最高。これは、たまらんっ。
やきめしがちょっとぐらいまずくても、見たことないラーメンがあっても、これでチャラ。
しかも、アホみたいに安い。(もっと取れよー。)
コーヒーとタバコとジャズのこの空間がワタシの生活の一部となっていた。
完全におっさんである。
奥のテーブルで試験勉強したり、本も何冊読んだかわからない。
基本的にはほったらかし。これがなんとも心地いい。

ターキーやらジャックやらは1本、6000円。
これだけでも安いのに、1本入ってたら、氷も水も何回行こうがタダ。(金とれよーっ。)
マスターやる気あんのかなぁー?どないして食べてはるんかいな?と言うのが正直なところ。
心配になる。
そんな思いとはうらはらに、ちっちゃいテレビにイヤホンのマスターが阪神巨人戦に見入っている。
勝つと機嫌がええ、負けると機嫌が悪い。意地悪になる(笑)

営業が12時までのため、ええ感じで切り上げて帰ることができる。
呑みすぎてしまうワタシにはちょうどいい。
しかもちょうど駅と自宅の延長線上に位置し、第2の我が家。
当時、父との関係があまりよくなかったワタシにとっては、おっちゃん、おばちゃんに囲まれて、
我が家より我が家だったのかも知れない。
ほぼ毎日のように通った20代。
だいたいお客さんの平均年齢はワタシより20歳ぐらい高め。
おとんでもなく、お兄にしては歳行ってる。
学生運動とかしていた世代らしい。あんまりよく知らんが・・・。
横のつながりでたくさんのお友達もできた。
皆さんにはとてもとても可愛がっていただいた。
時には仕事の悩みを聞いてもらったり。いろんな話を聞かせてもらったり。
大人の世界の仲間入りしたみたいで、とにかく楽しくてしょーがなかった。

釣りクラブに無理やり入れられ(笑)渓流釣りにも連れて行ってもらった。
ええ歳のおっさんらが命賭けで遊んでいるのである。
ワタシはライトな時にしか行かないことにしていたが(まあ、休みもとれなかったし、寒いのヤだし。)
やつらは、かんじきを手作りし(とにかくなんでも作るのである。)雪の中の釣り。
誰かが滝つぼに落ちたとか、遭難しかけたとか、絶対に、ごいっしょしたくない感じ(爆)
みんなアホである。
しかし、なぜか高学歴が多っかった。こんなにアホやのにぃ〜。 
弁護士とか教師とか、そのギャップがまた笑けた。
まさに「アホとかしこは紙一重」である(笑)

マスターとは、カメラとバイクの話でいつも盛り上がる。
しょっちゅういろんなバイクが止まっていた。
ワタシもカスタムしまくったアメリカンを自慢しに行く(笑)
撮った写真に意見してもらったり。
マスターのカメラマン時代の思い出話を聞かせてもらったり。

ボロボロの怪しい外観。これも30年以上前にマスターが建てた。
なんてったって、なんでも手作りだから(笑)
一見ではかなり勇気のいる空気。
不定期でのジャズライブ。ジャズが身体に染み付いた。
のち相方になる、ウエダヒデキにももちろん教えてやった。
彼も常連のひとりになっていた。

当時、付き合っている彼を連れて行くと、帰り際に「あいつは、やめとけ。ええことない。」とか言われる。
「アホか。」
しかし、マスターがそう言う時は長続きしない(笑)
ある時、「あんなんやめてウエダにしとけ。」と言われたことがあった。
ただ単に、マスターがウエダヒデキを気に入っていただけのことだが、5、6年のちなぜかそーなった。
たま〜に「ヤツに操られていたのではっ!」と思うことがある。
不思議なちっこいおっさんだった。

休みの日はだいだい昼ぐらいから開いているのでワタシの生活リズムとジャストフィット。
だらだらとマンガを読んだり、好きなCDをかけてもらったりした。
「毎度。」
入ると屋根裏部屋で昼寝をしていたり、ジャスコに買物に行ってたりして(開けっぱなしで)いない
ことも多く、ワタシがお客さんに水を運ぶ。
もしくは、なにかをつくっていたり、修理していたり。
入るといきなり大きな自転車。パンク直してた。
なに屋かわからん。

いつだったか「コルってコルトレーンのコルなんっ?」て聞くと、どーやら山の頂きにある凹んだ
ところを「コル」と呼ぶらしく、学生時代、登山に没頭していたマスターらしい答え。
マスターの指は凍傷で1本なかった。

マスターの電話はやたら短い。
「おう。ん。ほんじゃなー。」
どーも電話が好きじゃないらしい。
それでも、25歳の時、ワタシが体調を崩した時はよく連絡してくれた。
「生きとるかぁ〜?ん。そーか。ほんじゃなー。」

ワタシ達の結婚をめちゃめちゃ喜んでくれたのもマスターだった。
二次会の会場としてわざわざ開けてくれ、その日のライブのワタシも大好き「FREEDAM JAZZ
SPIRITS」の皆さんに残って演奏して頂いた。
朝方までくだらない話に付き合ってくれた。

        


             そんなそんな愛としのちっこいおっさん。さらばい。
             ホンマにホンマにアリガトウ。
             シノブさん、アリガトウ。
             あんまりにもええ顔してたから、嬉かった。
                     

BULL TROUT(いわな)

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